「貧困と格差のない社会をめざして」④
弁護士
平湯 真人
(子ども虐待防止センター理事長、「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク共同代表)
都教組、東京地評などが参加する「子どもを貧困と格差から守る連絡会議」は9月15日に、子どもの虐待防止に取り組んでいる平湯真人弁護士を講師に招き、学習会を行いました。その内容を紹介します。
○誰を罰するかよりも
虐待は特殊な親や家庭の問題ではありません。虐待事件は誰を罰するかよりも、そもそもの防止が大事で、この立場で子ども虐待防止センターの活動を行っています。
児童相談所に情報が寄せられても、民法の親権条項で取り組みが制約されてきました。最近、民法の改正があり、児童虐待を防ぐため親権の一時停止ができるようになりましたが、親の懲戒権は制限付きで残りました。
○児童虐待をめぐる状況
平成12年に児童虐待防止法ができ、児童相談所への市民からの通告が奨励され、立ち入り調査が認められるようになりました。子どもを虐待から守る官民の取り組みの中で、通告件数は急増し年間5万余にのぼり、児童虐待による死亡は49人(47事例)と報告(平成21年度)されています。そのうちゼロ歳児が20人(40.8%)と一番多く、0~5歳児が約9割(43人)を占めています。
○虐待の背景は
貧困など社会的環境の背景についての把握が弱かったのではないでしょうか。ゼロ歳児が多いということは、生まれた時から拒否されていたと言えます。虐待が行われた家庭の状況(資料)を見ると、経済的貧困と孤立が大きな要因として絡んでいることが明らかです。虐待を防止するためには、貧困と社会的孤立を重視する必要があります。
○背景と虐待行為を繋ぐもの
しかし、経済的背景があったとしても、なぜ虐待行動をやってしまうのか、その理由はわかりにくいのが実態です。昔、家庭は生産・消費の場で、働かないことに対する体罰がありました。家庭の役割が変化しましたが、今は裕福でも将来の貧困不安を解消するために、子どもの高学歴をのぞみ、勉強を強要するケースも増えています。しつけが動機であったとしても、子どもが言うことを聞かないからと、親の支配欲求と絡んで体罰がエスカレートする傾向があります。
○学校と地域の役割~監視でなく家庭支援を
都の児童相談所のほかに、区市町村などの自治体で、子ども家庭支援センターが設置されています。地域では、虐待の怪我を探すような監視ではなく、困っている家庭の支援が求められています。
そして、「学校に福祉の発想を」の期待が高まっています。「個人情報の保護」があるから、家庭のことに口を出してはいけない、との誤解が若い先生を中心に広まっています。これでは学校の役割が先細ってしまします。今度の震災で、父子家庭だった子どもが津波で父親を亡くし、校長が、離婚した母親を探し出し、ようやく子どもと繋げることができたケースを聞きました。
先生の研修会の参加が少ないのが残念です。都教委「虐待防止のパンフレット」を作成しましたが、できれば時間をかけて研修してほしい。何よりも大事なことは、知識よりも感性の問題、顔を腫らした子どもに何が起きているか推察できる「感性」を先生に磨いてもらいたいと、願っています。
虐待が行われた家庭の状況
家庭の状況 合わせて見られる他の状況上位3つ
状況 件数 割合(%) ① ② ③
ひとり親家庭 460 31.8 経済的困難 孤立 就労の不安定
経済的困難 446 30.8 ひとり親家庭 孤立 就労の不安定
孤 立 341 23.6 経済的困難 ひとり親家庭 就労の不安定
夫婦間不和 295 20.4 経済的困難 孤立 育児疲れ
育児疲れ 261 18.0 経済的困難 ひとり親家庭 孤立
(文責;編集部)
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