2012年12月21日金曜日

山田洋次監督が「3.11」後 2012年の家族を描く『東京家族』
東京革新懇は20117月、山田洋次監督をお招きし、「人間講座」(20夜)として、「『寅さん』から『おとうと』へ 人間の絆」を開催しました。この中で、201141日クランクインを目指していた『東京家族』を、311の東日本大震災、それに引き続き福島原発メルトダウンという歴史的な事件に遭遇し、製作を延期したことが明らかにされました。山田監督は、「311以後の東京を、或いはこの国を描くためには、どうしてもそれが必要だと考えたのです。」と述べておられます。新たに書き直した脚本で、『東京家族』は完成し、119日からロードシショーが始まります。(上写真、オープンした山田洋次ミュージアムにて、東京革新懇人間講座運営委員の角倉洋子さん)
この映画を推薦します
工藤芳弘(都教組委員長)
2011年4月にクランクインを予定だった映画『東京家族』は、3・11の東日本大震災、福島原発事故により制作が1年間延期された。東京の今、家族の今を描くということに制作の意図があったからだという。
3・11以降の東京、あるいはこの国に、それがどのような影を落としているのか。作品では、何気ない日常の一場面にあるそれぞれの「震災」や「原発」として描かれている。その思いの深さが、ほんのわずかな仕草、一言の台詞から、想像力を限りなく広げ、見る者の心深く突き刺ささってくる。それが、3・11以降の現実なのだと・・・。
『東京家族』には、特別な人物は登場しない。私たちが身近に感じられて想像できる人ばかりである。平山家の父・周吉は、元中学校教師という設定である。
しかし、橋爪功さん演じる元教師は、「どっかで間違ってしもうたんじゃ、この国は・・・」と絶句する。そして「このままじゃいけん」と繰り返す。山田洋次監督が震災による中断のあいだに書き直した重要なシーンだ。元教師が発するその言葉に、この作品における山田監督からの大きなメッセージが含まれている。
『東京家族』は、妻のとみこを亡くした周吉が、生まれ育った瀬戸内海の島で、これから一人で生きていくということで終わる。しかし、この作品に絶望感はない。むしろ、若い世代に対する希望とか期待のような思いが場面からあふれ出てくる。それも3・11以降の監督の思いではないだろうか。
映画のキャッチコピーに「これは、あなたの物語です」とあるように、「父母とどう向き合ってきたのだろう」「子どもとどう向き合ってきたのだろう」「家族の幸せとは何だろう」、そして「自分にとって家族とは」、そんなことを考えさせられる作品である。
山田監督は、1970年にも家族をテーマにした『家族』という作品を撮っているが、『東京家族』は、『家族』以上に「家族」そのものが主人公となっている作品である。(上写真、リニューアルした寅さん記念館)