2013年7月25日木曜日

 田邉順一 写真家
  どこで暮らせばいい? 認知症



このところ、気にかかっているのは急増している認知症のことだ。2012年には認知症高齢者は462万人、更にその予備軍が400万人だという。認知症の人たちと出会った1970年代から80年代は、社会資本はほとんど皆無に等しく、家庭での介護が無理になると精神病院か老人病院に入れるしかなく、そこで目にしたのは手足をベッドに縛られ薬漬けにされ、人としての尊厳を奪われた老人の姿だった。
30年が経ち、医療や福祉面ではそれなりに対応しつつあるが、社会的入院は増えている。2011年には精神科病院に入っている認知症高齢者は53,000人、5年前の2倍だ。徘徊や暴れる人たちには先ず抗精神病薬が使われるようだが、その量や内容の実態は不明。先進諸国では使用の可否が問われ、今や薬から人の対応へと移っている。徘徊や暴力などの行動には理由があり、優しく受容することで多くは解消するということが分かってきたからだ。
昨年の6月、遅ればせながらこの国もこれまでの「認知症は病院か施設で」という方針
から「尊厳を保ち、住み慣れた地域で」に転換すると宣言した。
ところが、逆行するような「精神保健福祉法改正案」がこの6月の国会を通過。緩和された医療保護入院制度により、来年4月からはこれまで以上に簡単に精神病院に入院させられるようになった。入院患者の減少に危機感をもった日本精神科病院協会からの強い働きかけがあったらしい。だが、宣言した国家戦略が如何に実効ある形で、迅速かつ着実に進むかをしっかり見ていかねばと思っている。
折も折、6月に私の古くからの友人が精神病院に緊急入院。認知症と診断されて8年、一人で介護をしてきた奥さんの疲労がピークに達し、相談したかかりつけ医の紹介だった。  
入院当日、自宅で朝食を摂り、着いた病院の玄関からは歩いて入った彼が、その日から食事を拒み、二本の足で立つこともできなくなった。
膝痛に苦しむ76歳の奥さんは自宅に連れ帰るべく準備をしているが、今の社会資本でどこまで支えられるか・・・。


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