三上 満(教育家、東京革新懇代表世話人)
いま安倍政権は、「戦争する国」づくりのために、子どもたちの心の中にまで手をのばそうとしています。それが自民党・政府・財界・靖国派が一体となって進めようとしている、いわゆる「教育再生」の策動です。
第一次安倍内閣のときに、国民の大きな反対の声をふみにじって、教育基本法改定が強行されました。その最大の狙いは、教育の政治支配に道を大きくあけることでした。そして、可能となった政治支配をテコに、教育の目的に、愛国心、伝統文化の尊重、公共の精神といった目的を、子どもたちの心にすりこむことでした。それは安倍首相自身や自民党の歴史認識と結びついた教育目的です。
今たくらまれている「教育再生」は、その狙いを、いよいよ実現しようと動き出したものです。
そのひとつは教育委員会制度の大改悪です。教育委員会は教育の権力支配を排するために、政治から独立した権限をもつものとして、戦後教育の自主性を守る柱となってきました。一九五〇年代の「再軍備」改憲策動の中で、それは公選制から任命制に変えられてしまい、それによってかなり形がい化してきたことは否めません。
しかしそれでも、政治の支配・介入をくいとめる役割を果たしたことも少くありません。いま沖縄県の竹富町で、あの育鵬社の教科書採択を拒否して教育委員会ががんばっているのもその一例です。文科省の「是正要求を出せ」という圧力に、沖縄県教委も応じていません。今や安倍政権にとって教育委員会も目障りな存在なのです。この教育委員会を、ほとんど権限のない諮問機関のようなものに変えてしまおうと言うのです。
この策動を許さないたたかいとともに、この機会に、教育委員会について学び、関心を持ち、ほんらいの機能を持ったものに変えていく取り組みが求められています。
もうひとつの重大な問題は、教科書の問題です。
「特に高等学校の歴史教科書については、いまだに自虐史観に強くとらわれるなど、教育基本法や学校指導要領の趣旨に沿っているのか疑問を感じるものがある」
これは自民党教育再生実行本部が出した文書にある言葉です。戦争についての真実、日本軍の犯した罪、それらへの反省などを、「自虐史観」と攻撃し、こういう教科書では愛国心は育たないと言うのです。これは安倍首相自身が、もっとも強く抱いている歴史認識に他なりません。
文科省はすでに教科書検定基準を変え、教育基本法の目的に沿わない教科書は不合格とするという方針を打ち出しています。それは彼らのいう「自虐史観」に立つ教科書を一掃するということです。これはまさに「戦争する国」づくりの意図と結びついたものです。 「道徳」を教科に格上げして、通知票の評価もできるようにするというたくらみも進んでいます。
集団的自衛権をみとめ「戦争する国」になっていくのか、憲法をしっかり守って平和のために貢献する国になっていくのか、いま私たちがさしかかっているこの岐路の中で、教育の問題も、きわめて重要な課題になっているのです。
教育は、子どもたちの心に希望をはぐくむ営みです。それは教育のただひとつの座標軸です。それ以外のものを座標軸に据えたとき教育は必ず歪み、子どもたちから離れたものになります。教育を「戦争する国」づくりの具にしようとする策動の、いちばんの犠牲者は子どもたちです。いまほんとうに、子どもたちを守るための共同を広げなければなりません。